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2013年7月20日 (土)

上を向いて歩こう (2)

作る側からその裏話をいろいろ書くのは少々気が引けるが、
自身の勉強の覚書として記しておこうと思う。

”上を向いて・・・”のメロディーは、中間部の”悲しみは・・・”の8小節を除くと、
ヨナ抜き(四七抜き。ハ長調ではファシ抜き)長音階である。

このヨナ抜き
音階はスコットランド民謡(「蛍の光」など)などにも多いらしいが、
西洋から見て、近代の日本の歌(唱歌、民謡、演歌など)に 特徴的な音階 とみなされたようだ。
その気になってメロディーラインを追ってみると、この曲は「蛍の光」に似ていると感じられるところがある。
 「赤とんぼ」(1927年山田耕筰作曲)もヨナ抜き長音階で、やはりどことなく似た節回しの感じがある。


  ソドドレミとか、ミソラと上がっていくところなど。
  ちなみに「赤とんぼ」はシューマンの「 序奏と協奏的アレグロ ニ短調 op.134
  に似ているという指摘もあるという。

粋なリズムと洗練された響きの中に、日本人にとっては郷愁を誘う、そして世界から見れば異国情緒の漂う、日本的
ヨナ抜き長音階のメロディー、というところが
日本でも世界でも愛された理由のように思われる。

とりわけ日本人サイドから見れば、
童謡や唱歌を思わせる、
日本的
ヨナ抜き長音階にもかかわらず、
とても軽やかで、リズムが切れているところ、ジャズを思わせる雰囲気などに新しい魅力を感じられたと思う。
出だしの木琴(シロフォン)の音の軽やかさ、
ベースの、ボン、ボンとはずむような粋な響きとリズム感、
そして呼吸するような、ウワーン、ウワーンと膨らむ弦の音。
これらの伴奏音と歌詞も含めて考えてみると、
一見(個々には)相反すると思える複数の要素が、合わさると見事に調和していて、
それらの全体と、構成された個々からくる刺激に、聴き手はいろいろな心象を抱くように感じられる。
坂本九さんの歌い方(声の響き)も一役買っているだろう。


  坂本九さんの歌い方が、”ウヘホムフイテ”のようだとか、
  ”H音”が入るだとか言われているようだが、私にはどうもそのように聴こえない。
  坂本九さんはところどころに(”涙がこぼれないよヲヲに”のところなど)
  ヨーデルのように裏声を入れているのであって、
  これは 中村八大さん自筆の楽譜 の指示通りだ。
  裏声を日本語表記しようとすると”こぼれないよホホに”と書かざるを得ない、
  というのならわからないでもないが。

出だしの木琴の音には 多少の曰く があるらしいが、
ピアノで真似してみると案外すんなりとそれらしい音が出た。
ただし右手のオクターブのトレモロは、実際に演奏してきれいに響かせようとすると大変難しい。
辻井伸行さんレベルなら難なく弾いてしまいそうだが、
素人が演奏する場合は、良いピアノと相当の練習が必要だ。


A-A-B-A-A(口笛)-B-A
というこの曲の構成において、フレーズAは出てくるたびに変化させようと考え、
起-承-転-転’(口笛的)-結
となるようイメージしたのだが、

このAの部分で使用したコードパターンは大きく分けて3種類になる。

”起”では、原曲のコード進行にほぼ忠実に従い、1,3拍目にベース音を入れてリズミックに、
”承”では、いろいろ勉強したコード変化を取り入れ、
そのコードの響きがより際立つように、1、3拍目に和音を置き、2,4拍目にベース音を持ってきた。
”転”では坂本龍一さんがサントリーのCMで用いた伴奏のコード進行を拝借し、そこにあった対旋律や、その他の合いの手を加えた。
転’(口笛的)”では1オクターブ上の単音の響きと、高での和音の響きの良さを入れた。
結”ではそれまでに使った明るい感じのコードを組み合わせ直し、
それらの響きが最も素朴に響くように、上昇型の分散和音を、少々抑揚をつけて入れた。

このAの部分のコードパターンがどのように変化したかを示しておく。
  (画像クリックで拡大)
Sukiyaki_code1
これ以外に、Bの部分でも、
1回目は”幸せは”ということでメージャーコードを多めに、
2回目は”悲しみは”ということでマイナーコードを多めに用いたりしているが、
ジャズのような凝った代理コードやテンションコードなどではなく、
ポピュラーでよく使われるコードや、せいぜいMコードや9thコード程度までのものを使っても、
ここまでいろいろなコードに付け替えられ、しかも違和感が感じられない流れになるとは、不思議な感慨を抱く。
コードが変わると、同じメロディーでも微妙に雰囲気が変わり、
聴いた時の心象が変わる。
そこのところが、曲自体でも語る力を持っている、この曲のスタンダード曲たりうる価値の一つのように思う。


  「 ぼく達はこの星で出会った 」(講談社)という本を私はこのピアノ編曲を終えてから読んだのだが、
  この中で中村八大さんは、
  少年期のクラシックのピアノの先生の、「荒城の月」や「さくらさくら」の変奏曲を聴いて、
  生涯をかけて大音楽家になろうと心に誓ったことや、
  日本の歌謡曲が、歌手と歌詞を重点としてつくられるものが多いせいで、
  歌詞のニュアンスはよく出るが、曲としての印象があいまいなこと、
  メロディーにはメロディーなりの構成と緊張感が必要であって、
  それらの要素がきちんとしていないと、曲としていつまでも残りうるものとはなり得ない、
  ということなどが書いてあった。
  この方は作曲家としては決して多作ではなかったようだが、
  それは曲単独としての質に非常にこだわった結果でもあったことが、
  この言葉からもうかがわれる。

お気づきの方も多いと思うが、(
面倒なので階名で、コードもハ長調で説明するが)
原曲では、”_-う-え-を-む-う-い-て”が
”_-ド-ド-レ-ミ-ド-ラ-ソ”と歌われる背後に、
”ド-レード-レ-”と低い弦の音が入っている。
後の口笛の部分ではもっとはっきり聴こえるのだが、
この低音の音は、歩いている動作を、擬音というよりは擬態的に表しているように感じられ、
同時に心の中で、何かの思いを反芻したり、揺れ動いたりしている様子を、
実にうまく表しているように思われる。
この部分のレの音は、原曲のコード(ハ長調で”C--Am--”)には無い音である。
ここらあたりが、作曲者で編曲も取り仕切った中村八大さんの天才的なところだと思う。
この音は、単純にピアノの音で真似するとうまく響かない。
CとAmのルート音がベースではっきり鳴っている中では、低い弦の音でこそうまく調和するものだ。


  この辺りは中村八大さんがジャズバンドを取り仕切っていた経験からのものだろう。
  ちなみにご自身が弾くこの曲のピアノ・ソロではこのレの音は入れていない。
  余談になるが、中村八大さんの ピアノ・ソロ がCDで残っていて、
  日本の唱歌や自作の歌謡曲、洋楽のスタンダード曲を弾いているのだが、
  使っているピアノの音が少しキンキンしていて残念ではあるが、
  シンプルな中にも、不思議な魅力があり、
  また、的確なコードワークとフレーズのひらめきが、とても参考になる。
  何より弾いているご本人が心から楽しんでいるような幸福感が感じられる。

  さらに余談だが、NHKテレビ番組 「夢で逢いましょう」の記録映像にあるこの歌を聴くと、
  レコードの公式録音が成される前なのか後なのか定かではないが、
  レコードにかなり近い編成の伴奏音がある中で、
  中村八大さんがピアノで実によい響きの合いの手や対旋律(ハモり)を入れている。
  (レコードになった公式録音の方にはこのようなピアノの音は出てこない)
  (ただし”涙が”の部分の1拍目にピアノの和音が微かに入っているようにも聴こえるが)
  録音が古く、音が鮮明ではないが、
  その単音の響きの良さや、フレーズのセンスの良さには惚れ惚れする。

この部分のレの音を何とか取り入れようとして、Cadd9とDmを使ってみた。
少々もつれ気味の足取りのようにも聴こえるかもしれないが、
なんとなくモゴモゴとした、私好みの響きが出たように思う。
原曲の雰囲気とは違うが、
Cadd9の響きはどこか茫洋とした印象を与え、視界が広がっていくようにも感じるのではないだろうか。


”滲んだ星をかぞえ--て”の部分では、
それまでのモゾモゾとした部分から、一気に上に解放されていく感じが心地よい。
ここではM7コードや9thコードなどを経過和音的に使うと、心地よさがより増幅されるように感ずる。


  この部分のコード進行は、右手の上昇と逆行して、
  左手コードの一部の音(軸となる音)が規則的に下降している点に
  心地よさの秘密があると思う。
  上掲のメロディー&コード譜中の5から7小節の、青色で示したコード進行なのだが、
  Cadd9 → CM7 → Am → C9 → F の各コードは
   ド   → シ  → ラ  → ソ  → ファ  という下降音を含む。
  もう一つ、C9 → F の心地よさだが、
  C9に含まれるミとラ#が、次のFに含まれるファとラ♮にそれぞれ
  ミ→ファ、ラ#→ラ♮ と半音移行する。

  また別のパターンで、この部分の紫色で示したコードは、
  C → Em → C7 → F と移行しているが、これは
   ド→  シ → ラ# → ラ♮   という半音階の下降音(カウンターライン)を含む。
  セカンダリードミナントもサブドミナントマイナーも
  この半音階進行が軸となっており、それが心地よさの理由であるようだ。
  このようなカウンターラインを含む経過和音を見つけることが、
  心地よく感じる和音を見つけることにつながりそうだ。

”だ星”の部分のAmは原曲のコードEmの代理コードなのだが、
このAmから”を”の部分のFに移る間にC9またはC7(特にその中のラ#の音)を挟むと心地よく感じるから不思議だ。
”をかぞ”の部分は、基本的には皆Fの仲間なのだが、
3拍目にDm9を入れると、上がっていって少し行き過ぎる感じが、この部分の盛り上がりを強調するように感じる。

次に”え--て”ではG#(コードとしてはE7)を入れてから、Am(原曲はC)に移ると、少々ブルーな”思い出す”になっていく感じがする。
原曲では”思い出す”の部分にC-Dmを使っているが、
メジャーコードとマイナーコードを入れ替えてAm-Gとすると、
微妙に変化した寂寥感が漂うように思う。


最後の締めくくりについて、ピアノをいろいろいじくっていると、
なぜかリストの コンソレーション第3番 のように終われないかという思いが湧いた。
最後のフレーズを、コードをシンプルにして( →F-G)、3回繰り返したのだが、
1回目は3つの音からなる和音で、
2回目は右手を単音に戻し、
3回目は3つの音からなる和音の最上音を、ラでなく、その上のドまで上がってから折り返すようにしてみた。
(コンソレーションは3度の2音で降りてくるが)

さて、以上のようなコードがらみの勉強のまとめとして、
メロディーとコードがどういう関係にあるのかを可視化するため、
メロディーの各音が、コードの何番目の音か、をまとめて表示してみた。
コードのルート音がメロディー音の時は”1”、7thの音がメロディー音の時は”7”というわけだ。
(I、II、III、のような和音記号とは異なる)
つまり例えば、初めの2拍で、メロディーが”ド-ミ-”と動いているときに、
コードCが使われているとすると、表示される数字は”1-3-”である。
”2”と”4”は(コードCの時のレとファ)コードの呼び方に合わせて”9”、”11”と表記した。
Sukiyaki_code2

通常の歌謡曲レベルなら、よくあるコード進行を覚えてしまえば、
メロディーにコードをつけることはさほど難しくないだろう。
(インターネットでその歌のコードを検索すれば原曲のコードは容易にわかる)
またコード理論などを勉強すれば、コード進行のいろいろなパターンを知ることができ、
それを当てはめていくことでコードを決定できるだろう。
ただ、私の経験で、メロディーを弾きながら機械的にコードを探せないか、
どのような手順で探したらよいか、ということはあまりはっきり書いてないように感じていた。
もちろん慣れていけば、メロディーを弾けば自然とコードはつけられるものでもあるのだろうが、
例えば、少々凝ったコード進行を持つ曲や、
原曲と異なるコードを使ってみたい場合や、
ある部分の経過的コードに変化をつけたい時などは
上に示したような見方も役立つように感じられる。

上記の図から言えることは、メロディーにコードをつける場合、
1.まずメロディーのいくつ分に一つのコードを割り振るかを決める
  (上の例では4拍子の2拍分に1コード)
2.そのメロディー音のどれかが、コードの1(ルート)または3または5番目の音になるようなコードを弾いてみる(メジャーコード、マイナーコード両方)
  (メロディー音をルートに持つコードと、その代理コードを試す)
  (1と3,5では感じが変わることを体感しておけば、どんな時に1か、
   どんなときに3,5かがある程度わかるかもしれない)
  (試した
メジャーコードまたはマイナーコードが、その調の音階に無いコードになる場合は、セカンダリードミナント、サブドミナントマイナーとなる可能性がある)
3.経過的な部分(どこかに移行していく過程のような部分)では
  上記1,3,5を持つコードの6th、7th、M7th、susコードを、
  またはそのメロディー音を6thまたは7thに持つコードを試す

もちろん、セカンダリードミナント(A7→Dm7、B7→Em7、C7→FM7、E7→Am7)、
サブドミナントマイナー(F→Fm→C)、susコード、
などの進行パターンを知っておくと、効率的だろう。
単独でなく、前後のコードの組み合わせで雰囲気や心地よさが変わるから大変面白い。
私の場合、後はこれらにどこで9thの音を加えるかとか、dimコード、少々の不協和音を試していくわけだが、
この範囲にほぼ答えがあるとわかれば、
あとは実際に音を出して試してみて、自分の感性(好み)で決めていけると思う。

この歌がいろいろなコードをつけられるといったが、
例えば4小節目で見ると、一音目が5であるパターンと、2音目が5になるパターンとがある。
また3音目が1,3となるパターンと、4音目が1になるパターンがある。
2音に1コードをつける場合、その2音のうちどちらに1,3,5をつけるかで
コードが変わる。
それがどちらも成り立ちうるということは、
この歌は、その2音のうちどちらかを省略して、どちらかを2音分伸ばしたとしても
音楽として心地よく成り立つようにできているということなのだろう。
そして、これは四七抜き長音階で音が上下に動くメロディーを作ると、
そうなりやすいものなのかもしれない。
4と7が初めからなければ、音が上下に動いても、その2音の関係が3度または5度になる可能性が高く、
代理コードが当てはまりやすいということなのではないだろうか。

コードが同じでも、そのコードを構成する音から何を減らすか、
あるいはどの音域にその構成音を配置するかによっても、
響きの感じが大きく変わる。
そこら辺は、編曲をかじってみると、プロのうまい編曲や名ピアノ曲などを聴くと
さすがにうまくできていると感じられることがある。
市販の、歌謡曲やポピュラー音楽をピアノ独奏に編曲した楽譜集などは、
このような観点では
案外、時にはコード進行すら、満足のいくものが少ないと感じられるが、
(原曲を聴きこんだり、YouTubeでのピアノカバーなどを参考にした方がよっぽどいい)
家族が、学校で使われる合唱のピアノ伴奏を弾いたりしているのを聴いたりしていると、
そこで使われるピアノ伴奏には、コードだけでなくその響き方まできちんと吟味した音になっていることが多いと感心させられることも多い。
今回の編曲の最後の部分のコード変化は、その中から参考にさせてもらったものである。

最後にこの編曲の楽譜を公開しておく。

   上を向いて歩こう_楽譜(ピアノ編曲:真)

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