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2012年5月

2012年5月19日 (土)

天地真理64 ちいさな恋(4)

昨年のファンの集いで、あるファンの方がご本人に、2番目に好きな曲は何ですかと尋ねたところ、
この「ちいさな恋」をあげられたと語っておられた。
本当にこれが2番目に好きなのか、
好きな曲は他にもいろいろあるから、とりあえず2番目のシングルということとかけて
この曲を挙げられたのか、その真意の程はわからない。
ただ、天地真理さんにとってこの曲は、シングルレコードで初めてオリコン1位を取った曲である。

   彼女が1位をとったのはこれが初めてではなく、
   全曲がカバー曲で占められたデビューアルバム「水色の恋/涙から明日へ」が、
   このセカンドシングルが出る前の1972年2月にアルバムチャートで1位を獲得しているとのことだ。
   このファーストアルバムは、通算13週(つまり3ヶ月以上)に渡り1位を取っていて、
   1972年の年間アルバムチャートでは、よしだたくろうさんを押さえて首位を獲得したそうだ。
   アルバムで1位を取るということは、歌手としてとても栄誉なことであると思う。
   それとともに、この歌手への正当な評価として、これ以上のものはないとも言えるだろう。
   しかもファーストアルバムである上に、シングルレコードが大ヒットするよりも前に
   これを達成したということだが、ご本人はこの事実をどのように感じておられたのだろうか。
   また、このファーストアルバムを当時買われた多くの方々は、
   どのような思いでこの新人歌手の歌を聴き、そして今どうしておられるのだろうか。

デビューシングル「水色の恋」が最高でオリコン3位までとのことだ。
何でもそうだが、1位とそれ未満の差は、印象として大きく異なる。
この曲を好きな曲の2番目として挙げられたことは、
やはり真理さんとしても、
このセカンドシングルが初のオリコン1位を獲得したありがたさを、
印象強く思っておられることの表れでもあるように思う。

さらに、この曲はシングルのA面曲として初めて、真理さんのために作られたオリジナル曲である。

   オリジナル曲としては、デビューシングル「水色の恋」のB面曲「風を見た人」
   (作詞:安井かずみ、作曲:村井邦彦、 編曲:森岡賢一郎)
   が既にあった。
  
印象深い気持ちがあって当然だろう。

ただ、単に2番目という以上の意味がこの作品にはあったように私には思える。
ファーストシングルのA、B面の曲から打って変わって、
この歌手を如何に売り出すかを考え、その後のアイドル路線に通じる
初々しさと未成熟な恋愛意識のような情感をテーマとして作り上げた歌詞、という点だ。

しかしそれを歌い上げるこの声は、どこかいぶし銀のようであり、
ヴィンテージ・スタインウエイのよう、と言ってもいい。
それはほとんど、この作り上げようとした企画イメージとはちぐはぐで、
アンバランスに感じられてしまうほどだ。
もっとも、この「アンバランス」というイメージは、
その後の「アイドル」たちが作り上げていった
この手の歌を歌う時に用いるニュアンスや歌い回し方が、
私自身の中で暗黙の基準となっているふしがある。
そのような先入観(いや後入感)を抜きにすれば、
むしろこの誠実さ、真っ正直さが
この歌、この歌詞にぴったりだと思えなくもない。

その後の天地真理さんのように”はじけ切っていない”と感じられる一方、
だからこそ天地真理さんの素の魅力として、
とても貴重で、味わい深いと言えるのではないか。


YouTubeに、当時の歌番組での、この歌の歌唱の動画が残されている。

「ひとりじゃないの」以降の、アイドルとして練り上げられた華やかさはないが、
とても上品な、大人のお姉さんが歌っている、といった感じがしたものだ。

歌い方がとても誠実な感じで、
ピリピリと
声を微妙にコントロールしようとしている様子も見て取れる。
ハの字まゆで、目をぱちくりしながら、少々ぎこちない笑顔を交えて歌う姿は、
後の、堂に入った表情での歌う姿に比べると、

この歌のテーマにぴったりで、とても初々しい。

私はある時期、「ひとりじゃないの」以降の、
はじけるような明るさと天真爛漫さを前面に出した輝かしい姿に、
アイドルとしてあまりに演出されすぎた辛さのようなものを感じてしまい、
それとの対照として、この「ちいさな恋」を歌う初々しい姿が、
この方が本来持っている、かけがえのない純粋さ、さりげなさ、ひたむきさを見事に示すものとして、
これこそが本来の天地真理さんなのだと勝手に決め付け、
ホログラムにして大切に取っておくべきもの、などと考えていたことがあった。

それとともに、彼女が得た人気というものに対し、
実は心からの誇らしさを感ずる一方、
後の展開を考えると、恨みにも似た割り切れなさを感じることもあった。

そこには、ここから別の展開もあったはずだ、
あるいはこれから大きく逸脱しなければ、かえって息の長い歌手生活ができたのではないか、
などという思いも含まれていた。


もちろん、何が本来の姿かなどわかるべくもなく、
また、彼女が得た人気は、
天真爛漫さも含めた、彼女自身の中にある様々な魅力に対する正当な評価であって、
それは彼女にとってもかけがえのないものであったこととして、今は納得できる。
それだけでなく、
「不世出の証」の項ですでに述べたように、
「ひとりじゃないの」以降のヒット曲についても、
今はそのすばらしさを冷静に評価することも出来る。


ただ、この、彼女だけのために作られた「ちいさな恋」という歌のシングル版の中で、
 ”ちょっとこわいの”とつぶやく彼女自身の言葉が、
1回目は何の陰りもなく爽やかに響く一方、
2回目に発せられる時は、微かに不安や戸惑いを感じさせるニュアンスを含んでいて、
それはもちろん、この歌詞本来の雰囲気を見事に表出していて、
それ以上でもそれ以下でもないことはわかっているのだが、

結果として、周到に練られた”真理ちゃん”路線に踏み出していく”ちいさな一歩”への
言い知れない恐れまで、期せずして象徴しているかのように感じられてしまう。


この地味で、ちぐはぐで、アンバランスに思える作品は、
それでも
どこか頭から離れない歌声、音楽フレーズ、アレンジ、
そして歌詞の魅力を含んで
いて、
爆発的人気を獲得する前夜の偶然と必然のようなものまでをも感じさせる、
とても印象深いものとして心に残り続けるだろう。

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