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2011年9月29日 (木)

天地真理52 水色の恋(4)

(2)「水色の恋」1974年ライブ版

ここでの歌唱は、何人かの方が既に述べられているように、
この曲の一つの完成形を示した、素晴らしいものだと思う。

へ長調。ファ(F)から始まる(シングル版より半音高い)。テンポ(四分音符)=87
アコースティックギターのみの伴奏によるシンプルな構成だが、
真正面からこの曲を歌いつくそうという意欲を感じさせる、入魂の表現だ。
(編曲は石川鷹彦さんと表記されているが、ギター演奏は吉川忠英さんと思われる。)
それはデビューシングルに比べて音程が半音高く設定されていることや、
テンポがここで取り上げた他の2回の時よりゆっくりに設定されていることからもうかがわれる。
最初の16小節をさらにテンポを落として、つぶやくように歌うこのやり方は、
「時間ですよ」第48回(1971年11月頃)で、自らのギターで歌ったやり方である。

  この「時間ですよ」で弾き語りした時の音程は、デビューシングルより逆に半音低い。
  つまりその時に比べ、1974年のライブ録音時は長1度(半音2つ分)高い。
  2階ベランダに腰掛けての、少し低い音程での「水色の恋」も
  落ち着きがあってとても素晴らしい。
  通常、デビュー時(より若い頃)の音程からは、
  下げることはあっても上げる例は少ないように思う。
  デビューから3年たったこの時期に、半音あげて取り組むこの曲への意気込みは
  如何ばかりだったろうか。

プレミアムボックスのライナーノーツによれば、
この1974年はレコードセールスが以前のように行かなくなり、
人気が陰り始めた年とある。
一方で、このライブ録音を行った1974年9月の3ヶ月前には、
「恋と海とTシャツと/恋人たちの港」と題された、内容的には素晴らしいアルバムが出ている。
そしてこのライブアルバムである。
レコードセールスがいかに当てにならないものか、
レコードを買ってくれるファンというものは、そこにある音楽そのものを買うのでは必ずしもない、
ということを、皮肉にも感じずにはおれない。


ギターの響きはいいものだと思う。
中高域の、多少金属音的響きが混ざった音が、
即興的な装飾音を交えて弾かれる一方、
ギターボディーにずしりと響く低音が、印象的なスライド奏法と共に、ベース音を際立たせる。
そんなイントロに乗せて、絶妙な音程とタイミングで「さよならの」と始まる。
そして、この声に、これまた絶妙なタイミングと強調のされ方でギターが絡んでくる。
この時点でこの音楽が、ただならぬ、素晴らしいクオリティのものであることを
約束しているかのようである。

この時の声の調子、そして音程が半音高いせいもあって、
とても透明感のある、爽やかで鮮やかな歌声だ。
「遠く去って 行く人に」のところで、微かにではあるが、翳りと憂いの陰かかかる。
そして「涙だけ」が、倍音を増して、
開き直りの心情を表すともとれるわずかな力強さを伴って発せられた後、
それと対照的に、「がー」が、ハッとするような透明感を持った、
倍音の少ない、ノンビブラートの声で発せられる。
ここでは、一瞬息をのむような感覚に襲われ、
涙だけが無機的に、自分の意思と関係なく、
しかも涙であるにもかかわらず何故かwetではなくdryな、
花びらのような印象を持って描写されているように感じる。
それが悲しみを、即時的な、感情の大きなうねりを伴ったものではなく、
どこか悲しみが昇華された後の余韻、あるいは、
心が定めを潔く受け止めた後の残像として表現しているかのように感じさせる。
私はそのような真理さんの悲しみの表現がとても気に入っている。

「飛んで行くの」が、きっぱりとした趣を漂わせる中、
最後の「のー」の声が、微かに倍音が加わった声質と、ゆったりとしたビブラートによって
余韻をもたらすように響く。
すばらしい。

続く、「さよならは お別れの 言葉だから」の所まで来ると、
この「言葉だか」の段階で既にそれが来たと気づくのだが、
「らー」が、声を伸ばすうちに、喉の一段深いところまで鳴っているかのような、
素晴らしい響きを出す。
これは以前に説明した、真理倍音Ⅰ(U4kO6k倍音)だ。
(4kHz未満の倍音がほぼむらなく出ていて、なおかつ6kHz以上(~9kHz)の倍音が弱く加わる。)

この音色は、デビューシングルにおいても部分的に、
またデビューアルバムの中でも、曲によっては見られるのだが、
ここに及んでそれは、より豊かな声量と輝きを持って繰り出されるようになった。
単にきれいに歌う、上手く歌うということだけでなく、
声の質的な響き一つで、音響的に聴き手をノックアウトしてしまう力をも、
この3年の間に、彼女は磨いてもきたのだということがわかる。

こんな素晴らしい声を聴かされた直後に、
「あなたの姿 あなたの声は いつまでも私の 想い出に」
とくれば誰だってやはり、”そのあなたは、あなたですよ”と思うのではないだろうか。



私はこのライブ録音に立ち会われた方々を本当にうらやましく思う。
ただ正直言って、私がもしこのライブの現場に居合わせたなら、
ここまでこの歌そのものに集中できただろうかという、一抹の疑念を抱く。
このライブで真理さんは、ほとんど普段着のような服装で、イスに腰掛け、
巨大な録音用マイクを前に歌ったようだが、
それでも恐らく私は、その中での彼女のちょっとしたしぐさ、表情、息づかいの方に
半分以上の注意を奪われたことだろう。

「プレミアムボックス」にはDVDが1枚付いていて、
「真理ちゃんシリーズ」の中で歌った時の映像を見ることができるが、
「プレミアムボックス」購入後初めてこれを見た時、
その中で何をどう歌ったのか、全くと言っていいくらい印象が残らなかった。
それよりも、おでんの鍋のにおいをかいだ時の表情などが頭から離れず、
それを何度も反芻してしまっていた。
今でも、この時の表情を題材に、長文を書く自信がなくもない。

彼女が優れた歌手として認知されていなかった理由、
また、最近になって昔のファンが彼女の歌を再評価し、
その歌の良さを、再認識というよりは初認識に近い感情を持つ理由のかなりの部分が、
この強烈な映像的魅力による、一種のカムフラージュ効果にあったのではないかと、
私は自戒とともに考えている。

ただ、そんな体たらくの場合であっても、
「あなたの姿 あなたの声は いつまでも私の 想い出に」
の中の、「あなたの姿」に比重を置いてこれを唱えれば、
やっぱり、”そのあなたは、あなたですよ”ということになる。
この歌は本当によくできている。

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コメント

最も美しい「水色の恋」ですね。
デビュー前に歌っていた「ちいさな私」が最も洗練された形で甦ったといってもいいでしょうか。
心のおもむくまま自在に歌いながら、ひとつも欠点を見つけることのできない完璧なうたですね。

ひこうき雲さん
こんばんわ。
その声から言っても、表現から言っても、
まさしく”もっとも美しい「水色の恋」”ですね。
こういう録音を残せたということは、
たまたま調子がよかったとかいうことではでき得ないことだと私は思います。
もとからあった素養、性向に加えて、
デビュー以来の3年間、アイドル業に忙しくも、
積み上げ、磨いてきたものがここに結晶したのではないでしょうか。
そういうものを、ひこうき雲さんがやられてきたように、
正当に評価するということは、早い遅いは関係なく、
とても重要なことであると思います。

真さん、こんばんは~

この「水色の恋」については、昨年、「天地真理の真の実力」を知ることとなった衝撃的な曲のひとつです。
当時、ここでの声の透明感を味わい尽くそうと、拙宅のオーディオアンプのヴォリュームをどんどん上げていったことを記憶しています。また、私はあまり詳しくないのですが、録音も、ライブということもあって、自然なリバーブ主体のマスタリングのような気がします。それが私にとってはまた好みに合います。(大体、歌謡曲のスタジオ録音は派手さ狙いが多いので。。)

アコギの演奏がまた素晴らしいです。ご指摘のように、最初のAメロにおけるアコギは絶妙です。テクニックをひけらかすようなことはせず、あくまで自然に真理さんの歌を引き出す素晴らしい演奏だと思います。本当に上手なギタリストじゃないと、こうは弾けません。(ギターは多分Martinだと思いますが、いい鳴りしてます。)その後、別のアコギが加わって2本で行ってます。さすが当時スタジオミュージシャンとしてひっぱりだこだったという吉川忠英さんと石川鷹彦さんです。

私にとって、この水色の恋がベストではありますが、デビュー盤もすてがたいダイヤモンドの原石のような魅力にあふれています。無人島に行くのにどちらかを選ベ、と言われると、ひょっとするとデビュー盤を持っていくかもしれません(笑)

pokerin3545さん
やっぱり2人でしたか。
そうかもしれぬとも思ったのですが、
当方ギターでどこまでできるものか知らないもので、
またあまりにビタッと合っているので、
こういうギターテクニックがあって、
一人でやっておられたら失礼かという思いがよぎってしまいました。
こういう録音も、またこういう伴奏で歌えるのも、
ライブの良さですね。
そしてそれに十分こたえられるクオリティの歌を残してくれた真理さんに
やっぱり拍手です。

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