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2011年9月21日 (水)

天地真理51 水色の恋(3)

天地真理さんのデビュー曲「水色の恋」は、
公式音源「プレミアムボックス」に5回現れるが、
そのうちの3つ、デビューシングル(アルバム版と同じ)、1974年、1976年のライブ版について
触れてみたい。

(1)「水色の恋」デビューシングル版(1971年録音)

ホ長調。ミ(E)から始まる。テンポ(四分音符)=115
印象的なエレキギターの前奏と、それに続くリズムギターの軽快な響き、
そして少し早目のテンポが、この長調の別れの曲を、明るいものとして特徴づけている。
少しかすれ気味の声、震えるようなビブラート、
さすがに初めての公式録音で多少のぎこちなさもあるが、
何ともまろやかな魅力的声とともに、そのひたむきな歌唱が心を打つ。

このシングルのB面「風を見た人」を聴いても、
その後の真理さんからすればちょっとびっくりするぐらいのひたむき路線だ。
真理さんは Joan Baez が好きだったそうだが、その影響を感じなくもない。
日本人で言えば、同じく Joan Baez に影響を受けたという森山良子さんに近い路線を
目指していたのだろうか。
デビュー時点でソニーからは既に「白雪姫」の称号をもらっていたのだが、
まだその後の明るい真理ちゃん路線が、歌としては固まってはいなかったことをうかがわせる。
ただ、これはどちらかが優れているといったことではなく、
どちらも私には魅力的に感じられるのだが。

デビュー前に「ちいさな私」を歌った時も、このひたむきな感じの歌い方が聴かれた。
デビューシングルを作る時、この曲を何度も録音し直したらしいが、
この歌唱は基本的には、彼女の音大付属校からアマチュア時代までの修行で積み上げてきたものの
集大成の一つと言っていいのではないだろうか。
この歌が含まれるデビューアルバム全体も、全曲がカバー曲であるせいもあるが、
その後のアルバムとはまた一味違った
その後の企画色にまだ染まり切っていない、
いろいろな可能性を秘めた、初々しくも貴重な魅力を持っているように思う。

最近YouTubeで、デビュー直後のラジオ番組でのこの曲の歌声を聴かせていただいたが、
ジャズカルテットらしき伴奏に乗って、実に堂々たる歌声を聴かせていた。
真理さんの声は、このような小編成のデリケートなサウンドにことさら良く調和する。
デビューシングルの歌い方とそっくりで、よほど繰り返し練習したことが窺われるが、
一番最後の「想い出に」のところのテンポの取り方などは、
シングルの時は少々作りすぎの感じがあったが、
ここではより洗練された感じで、
特に最後の「に」に入る瞬間のこぶしのような小さな装飾音的ポルタメントは、
当時はやった歌い回し方のような気もするが、
プロらしい味を感じさせるものだった。

前項で紹介したアマチュア時代の「ちいさな私」の歌声、
デビューシングルの歌声、
そして上記デビュー直後のラジオ番組での歌声を聴いているうちに、
なぜか私は、最近夜になると良く耳にするエンマコオロギの声を思い出した。
小さな体から発せられるその音は、
心地よく、柔らかだが、不思議と外から部屋の中まで響き渡ってくる。
ひょっとしたらこの豊かに聴こえる音量は、発声体そのものの力と、
聴く側の耳の選択的増幅作用によるものかもしれない。
この頃の真理さんの歌声の響きは、本質的にそのような味わいと響き方を持っている。
Charice Pempengco の強烈に響き渡る声が、トランペットのような金管楽器とすれば、
真理さんの声は、フルートのような木管楽器、あるいは時にオカリナのような陶器楽器を思わせる。
そんな真理さんの歌声の優れた特徴が、この時期の歌声に端的に感じられる。

私はこの時期に、彼女がこの歌を音楽番組で歌った映像を知らないのだが、
「時間ですよ」第48回(1971年11月頃)にギター弾き語りでこの歌を歌っているのを見ることができる。
次のシングル曲「小さな恋」をテレビの歌番組で歌った時の映像もそうだったのだが、
この曲を聴くと、真理さんが眉をハの字にして歌う表情が思い浮かぶ。
2番の歌詞「何故かしら 夢の中」の部分は、とても情感豊かに歌っているが、
このところなど、あのハの字眉で歌っているに違いないと思う。
どこかやさしそうで、一途な感じの人柄が窺えるようで、とても惹きつけられる。
これは、この時期の歌唱特有の魅力ではないかと思う。

印象的な歌詞、「あなたの姿 あなたの声は」の部分は、この歌の中で3回出てくるが、
さりげなく、やさしく歌う1回目、
かなり感情をこめて情熱的に歌う2回目、
そして少し毅然たるイメージをこめた3回目、
いずれも味わい深いものだ。
とりわけ、「あなたの姿」の部分は元気がいいのに、
「あなたの声は」の部分は、どこかはにかんだようなニュアンスで、
とても魅力的でかわいらしい。
マイナーコードの部分が元気よく、メジャーコードの部分がデリケートな感じなのも
真理さんらしい。

同じく3度出てくる「いつまでも私の想い出に」では、
初めの2回は、「私の」の一つ一つの音を切って表現している。
メゾ・スタッカート~音を保ちつつ切り離す~というのだろうか)
他の歌手なら泣きの一つも入るところかもしれないが、
次の「想い出に」との対照効果も出て、暗くならず、かといって軽くもなく、
いろいろな想いを聴き手にも抱かせる、優れた表現のように思う。
以下にあげる2つのライブ録音でも、この「私の」の部分は同様に
メゾ・スタッカートで歌っているが、
このデビューシングルの三回目では、何故か音をつなげて(レガートに)歌っている。
これは私の根も葉もない勘ぐりだが、
この最後の「私の想い出に」の部分の表現が、
今から思えば少々作りすぎの感じがしないでもないが、
レガートを用いて、言葉より音楽の流れを強調したり、
珍しく拍から言葉を大きくずらすなどすることによって、
どこか、”私は歌手ですよ”と、ここで宣言したかのような、
あるいは刻印を残したかのような気がしてならない。

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コメント

いやあ、素晴らしい記事ですね。お見事です!

特に、エンマコオロギの声/木管楽器などの響きとの共通点を見出されたという、その慧眼に感服しました。

上手く言えないのですが、「水色の恋」の派手ではなく、心地よく、やわらかな響きって、樹や虫、清流等、森の清澄な響きに溶け込むようなものかもしれませんね。(おそらく皆さまと同様、何度聴いてもあきないんですョ、この歌)

また、デビューアルバムの素晴らしさについてですが、基本フォーク一色のこの路線であと1,2枚出して欲しかったです。(後から聴いている者の勝手な言い草ですけど)

pokerin3545さん

コメントありがとうございます。
エンマコオロギはちょっとGっぽくって真保さんには嫌がられるかもしれないけど、
真理さんは昆虫は平気だそうなので、まあいいでしょう。
初めはスズムシにしようかとも思いましたが、
上記YouTubeを聴くと、やっぱりエンマコオロギかなと。
春の風さんのブログで、
高校時代の音声科の先生が「音質はとてもきれいなメゾ・ソプラノでした」との証言がありますが、
全くその通りだと思います。

叶わぬ夢ですが、「あと1,2枚出して欲しかった」
同感です。

さすがですねえ。
いろいろの音源を何度も聴き直しながら読みました。

特に、最後の「わたしの」をレガートで歌っているというのは、これを読むまで意識していませんでした。
またそれに続く「想い出に」の解釈も興味深いですね。たしかにこの部分は非常に印象的ですが、私は最後まで歌いきった安堵感が、あの、ちょっとけれんのある歌い方になったのかなと考えていたのですが・・・。

「あと1,2枚出して欲しかった」・・・私も同感です。それまで私の中では真理さんに対し“少女歌手”という印象がまだあったのですが、ファーストアルバムを聴いてその印象は全く覆りました。

ひこうき雲さん
コメントありがとうございます。
「水色の恋」がひこうき雲さんにとって特別な曲であることは
存じあげております。
このうたの魅力から真理さんに入られたところこそ、
さすがと言うしかありません。
私の場合、もちろん「水色の恋」は彼女のデビュー曲として
若いころからよく認識はしていたのですが、
1971年当時、この曲をきちんと聴いた記憶がないのです。
その点はちょっと悔しいというか、情けないというか。
でもいろいろな歴史を経て今聴いても、
やはりとても味わい深い曲であると思います。

真様の記事は優しさの一方、丁寧な検証と考察で有無を言わせぬ迫力があり、にわか真理ファンとしてはとても勉強になっております。
小生、水色の恋は日に2度は聴いている( iPOD = BOX のランダム再生専用機)筈も、背景までは聞き分けておりません(出来ない?)でした。
小生、あえて言えば、デビュー版の「ひたむきな歌唱」が一番でしょうか。
しかし空模様と心模様次第では他の版の方が心地よく聞こえたりするのが不思議です。
曲名は二番の歌詞からでしょうが、その歌詞を離れても「水色の恋」はこの歌の曲想を余す所なく表しているように思います。

MICさん
「にわか真理ファン」とはおっしゃいますが、
相当聴き込んでおられるご様子。
でも「にわか」とおっしゃる方に読んでいただけて大変うれしいです。
ほんの少しでも、真理さんに恩返しできたと感じる時です。
このデビュー版は、おっしゃるように、
うまいとかどうとかでは言い表せない魅力がありますね。

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