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2011年4月22日 (金)

天地真理29 証② 構成美「小さな日記」-5 構成美の習得は?

天地真理さんの歌の構成美を説明するために、
「小さい日記」という曲を例として用いた。
この曲は、歌詞としても起承転結がはっきりしており、構成を説明しやすい。
しかし、このような曲でなくとも、初めに「空いっぱいの幸せ」を挙げたように、
他愛のない歌詞の青春ソングのような曲であっても、
私は彼女の歌に構成美を感じることができる。

もともと彼女の歌には、そのデビュー曲から、
「端正さ」や「言葉と音の表現バランス」などが備わっていたが、
彼女の歌を録音年代順に並べて聴いてみると、細かい録音順までは定かではないが、
「ひとりじゃないの」(シングル版)を境に、
明るさのニュアンス付けや、言葉一つ一つの微妙な味わいを中心として、
表現の豊かさが大きく広がったように思う。
この辺の事情について、本当はご本人にきいてみたいところだ。
「ひとりじゃないの」は、いろいろな意味で彼女の最初の転機となった曲だと思えるのだが、
そこのところは、いずれまた触れてみたいと思っている。

 構成美①「端正さ」
 構成美②「言葉と音の表現バランス」
 構成美③「表現の控え目な豊かさ」
などの構成美を、彼女はどうやって身につけたのだろう。
私は、彼女が器楽、とりわけピアノを修行していた、
しかもそれは、たしなむといった程度ではなく、
真剣に取り組んでいたためではないかと思う。

ピアノという楽器は、弦をハンマーでたたくという、
いわば打楽器的要素があり、鐘に近い印象もある。
そして、たまにしかピアノの音を耳にされない方にとっては、
ピアノの音は、単調な、ある一定の音色の音の連なりのように思われるかもしれない。
しかし、ピアノのハンマーは単純な木の棒とか鉄のハンマーのようなものではなく、
木の芯があって、その表面に、厚み方向に硬さの異なるフェルトがついている。
これが打鍵の強さによって音色の微妙な変化をもたらす。
また、グランドピアノにはソフトペダル(シフトペダルともいう)というのがあって、
ハンマーが弦を叩くとき、横方向に位置が変化して、
ハンマー表面の、弦に触れる位置が変わって音色が変化すると同時に、
複数弦を同時にたたく中音域以上の音程では、
同時にたたかれる弦の数が変わったりする。
さらに、ラウドペダルというのがあって、
打鍵した弦の音が長く伸びるだけでなく、
打鍵していなかった弦まで、響板とともに共鳴するため、
これがまた別の音響効果を引き起こす。
またそもそも、このようなピアノ共通の機能による変化以前に、
個々のピアノによって音色や響き方がかなり異なる。

ピアノ音楽を聴きこむと、はじめは単純に思えるピアノの音が、
上記のような機能や楽器の個性によって、いろいろなニュアンスとなって聴こえてくるようになる。
これらの音色変化、音響変化は、声に比べれば非常に微妙な変化であるが、
ピアノの名手は、この微妙な変化で、様々な色彩や情感を表現できる。
そして、微妙だからこそ余計に、また言葉がないから余計に、
様々な情感が感じ取れる、いや、聴き手の心の中にあるものと共鳴して、
様々な情感が心に湧いてくるのだ。

天地真理さんは、間違いなくこのことを知っている。
彼女は音楽学校でピアノを修行する中で、そのことを教え込まれ、
自分でもそれを音楽の美点として納得し、自分の歌作りの基本として取り入れ、
音楽における自分のこだわりとして持ち続けたのではないかと思う。

構成美習得の理由のもう一つは、
音楽学校の学生であった天地真理さんにとっては当然のことだが、
楽譜が読めるということにあると思う。
彼女はピアノや歌で初見がきくということを、ある記事で読んだこともある。
テレビの「真理ちゃんシリーズ」で次から次へと劇中歌を歌うときには、
その能力が大いに生きたことと思う。

歌謡曲の世界では、楽譜というものを媒介せず、
コーチ役の作曲家の先生による口移し的レッスンや、
録音テープなどで曲を覚える歌手も結構多いと聞く。
こういうやり方で身に付けた音楽の価値が、
楽譜をきちんと読んで身に付けた音楽に劣るということは必ずしもないが、
ここで言う構成美のようなものは表れにくいのではないかと思う。
楽譜を音楽作りのベースに置くということは、
構成美の骨格を作る上で大変有利に働いていると思う。

クラシックの世界のピアノ音楽でも、
楽譜に示されたリズムや指示から大きく逸脱した演奏がなされた時期があったが、
1900年代の中ごろからは楽譜に忠実にという流れができてきた。
当然天地真理さんもそのような流れの延長上にある教育を受けてきたはずである。
私は楽譜至上主義、作曲家至上主義には必ずしも同意しない立場で、
端正であろうと、演奏家の表現力には、楽譜に表しきれない豊かさが必要だと考えており、
崩してあろうと、端正であろうと、(自分にとって)いいと思えるものはいいという、
ちょっと説明しにくい信条を持ってはいるが、
ピアノ音楽でも、楽器そのものの音色、タッチ、ホールの響き、録音の仕方など、
音そのものに卓越した美点がある場合、
端正に作り上げられた音楽の方が、それらが生きるという思いは強い。

天地真理さんがピアノに真剣に取り組んでいたこと、
そして端正な中にも控え目だが素敵なニュアンスを付けるということをやっていたことは、
彼女が残したピアノソロ演奏「バッハ インベンション第15番」を聴いてもわかる。
この演奏は、クラシックのピアノ曲を、
歴史上の名手から現代の新進の演奏家までを(好みに従って)聴いてきた私の耳で聴いても、
素晴らしいと思えるものだ。
それについても、いずれ別項で触れてみたい。

ここでちょっと寄り道して、ピアノ音楽を紹介しておく。
古くて恐縮だが Wilhelm Kempff の「Beethoven Tempest」である。
天地真理さんの構成美を書いていてなぜか思い出した演奏だ。
このピアニストは、途中に出てくる分散オクターヴを何度も失敗している。
現代のコンクール上がりのピアニストならば、恥ずかしくて逃げ帰ってしまいそうである。
しかし、凄い技術を誇る昨今のピアニストが逆立ちしても敵わないものがここにある。
ドイツ人らしく、テンポルバートがほとんどない端正な演奏だが、
さりげなく始まる出だしのピアノの響きとニュアンス、
そしてそこから引き込まれてしまう音楽の素晴らしさはどうだろう。
私が言わんとしていることは、おわかりのこと思う。

私は天地真理さんが「さくらさくら」、「みかんの花咲く丘」など、
いわゆる昔の文部省唱歌を、とても素晴らしく歌っていたのを、
非公式音源だが、YouTubeで聴かせてもらった。
彼女の不世出の音色美と構成美をもって、
もっと多くの唱歌を公式音源に残してもらいたかったと、心底思う。

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コメント

真さん、こんばんは。
私が、真理さんの「小さな日記」をはじめとする何曲かのフォークを聴いて、まず思ったのが、自分も好きでギターを爪弾きながら口ずさんでいたこれらの曲を、真理さんが録音に残していてくれたことが本当に嬉しかったという事です。
歌い方については、真さんの解説どおり、真理さんはリズムと音程に関してかなり正確で、崩した歌い方を好まない(もしかしたら、あまり得意ではない?)歌手だと思います。そんな真理さんによく見られるのが、言葉を音価いっぱいに伸ばさずに短く切ってしまう歌い方があります。クラシックではなく、あくまでポップスの歌手たらんとする真理さんがリズムと音程を崩さない代わりに短く切ることで、ポップスらしい身近な親しみやすさを表そうとした他の人にあまり無い独特の表現方法だと思います。

それと、実は、少し前に真理さんの歌の楽譜集を買いました。どんな風に感じながら歌っていたのか気になりだしたのです。
想像するに、声楽を勉強してきた真理さんの歌の覚え方は
1.楽譜をみて、歌詞をつけず音名で視唱する。
2.楽器を使って音を確認する。
3.歌詞をつけて歌う。
この順番ではないでしょうか?
そして、こういう覚え方をすると、覚えた以後もかなりの期間、歌いながらも常に譜面を思い浮かべながら歌っている気がするんです。その楽譜を自分も見ながら歌を聴いてみたいと・・・。
真さんの記事を読みながら、最近は、そんなどうでも良いことを考えながらCDを聴いています。

sakura6809さん

コメントありがとうございます。
ピアノのことを書く時、
sakura6809さんはどう思うだろうかということが、頭をよぎって多少緊張します。
無理に書かなくてもとも思ったのですが、
勝手に制約をつけてもと思い、好きに書いてしまいました。

私が本文中で、真理さんが「楽譜が読める」と書いたのも、
sakura6809さんがおっしゃる「歌の覚え方」に近いイメージを持ったからです。
1,2,3と順番をつけるところまでは思い至っていませんでしたが。
ましてや、楽譜を見ながら歌を聴くところに、真理さんと同化の道を見出すとは。
負けました。

ファンクラブの「○○○の便り」に質問コーナーでもあれば、
私は真理さんの「歌の覚え方」についても聞いてみたいと思ったりしますが、
大方の皆さんにとっては、sakura6809さんのおっしゃるように、
「どうでも良いこと」なのかもしれません。

人生で最初に買ったレコードは二人の日曜日です。
小学生のお小遣いで買った500円のレコードをどきどきしながら聴いたことを思い出します。
真理ちゃんはほんとにきれいでしたね。
いまでも真理ちゃんの歌声はあの頃の気持ちを思い出させてくれます。(そして何より歌が上手い)
でもあの裏声でなく素のままの歌を歌っていたらとおもうと。
今のような時代ではなかったあの頃。。。。
その後のキャンディーズはきっと彼女の事を見て「使い捨て」を目の当たりに見て自分たちの人生を考えたのだと思います。

toshiさん

はじめまして。
「ふたりの日曜日」はシンプルで地味な曲ですけど、
ほんわかした感じがとてもいいですね。
真理さんはこういうシンプルな曲もとてもうまいです。

先日渡辺プロに関する本を図書館で借りて読んだのですが、
おっしゃるように、真理さんに限らずいろいろ大変だったことが窺えました。
でも我々ファンも無関係ではなかったことがやるせないです。

真さん、お久しぶり~ね、、、私の事は~♪♪♪ ははは、新茶の忙しさも終わったかと想えば、これからはお中元の時期になりました。 放射能の風評被害でまいってます・・・!
でも、天地真理さんの歌で、メランコリーにならずに済んでいます♪ 

天地真理さんの【小さな日記】は、カバーの中では特筆に値しますね。 ベストマッチ!
真理さんの天性が、「歌の表情」ガラっと変えてしまう・・・
こんな歌手、そう ざらにはいませんねえ♪
で、昔の映像も50代の歌も、歌い方の基本が同じなのでアテレコ(合成)が、難しくないですね。

イッチーさん

日頃より静岡茶のお世話になっているものとしては
本当に心苦しいです。
お店に出たものは今もありがたく頂いています。

楽しいYouTube作品拝見しましたよ。

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