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2011年4月 4日 (月)

天地真理24 証①音色美 「好きだから」-19(周波数成分10 ビブラートゆらぎ・完結)

もうひとつの倍音ゆらぎの例は、ビブラートにおいてである。
ビブラートについては「天地真理13」と
「天地真理14」で触れたが、
ビブラート自体が周波数ゆらぎである上に、
天地真理さんのビブラートにおいては、倍音ゆらぎも加わる。
そして、よく観察してみると、思いつく限りのゆらぎがこれに含まれていることがわかる。

1973年録音の「愛になやむ頃」の冒頭を聴いていただきたい。

Voiceprint_aihaaruhi

この曲については、いずれ単独で取り上げてみたいと思っている。
天地真理さんの歌の魅力を凝集したような、素晴らしい歌だ。
ここではその一部を抜粋して、ビブラートについてのみ触れてみたい。

私はこれほどまで心地よいビブラートを他の歌手で聴いたことがない。
まず冒頭の”あいはーあるひー”の部分である。
それぞれの言葉をきっぱりと発した後に、強制的に揺するのではなく
どこからか湧きあがってくるようなビブラートが、ふわっ、ふわっと
この上なく心地よい音色とともに連なる。

図31に見られる2か所のビブラートは、「天地真理13」で述べた、
振幅が直線的に、三角形状に増加する、自励型ビブラートである。
これは「ビブラートの振幅ゆらぎ」といえる。
まさにゆらぎが湧いて出ている。

そして、いずれのビブラートにおいても、そのビブラートが続く間に
倍音が減少していっている。
図31の右側の
ビブラートでは、最後には基本周波数のみ残る。
すなわち単一周波数の純音にまでなっているのである。
究極とも言いたくなる「ビブラートの倍音ゆらぎ」である。

次に、”きゅうにーこのーむねのー”の部分である。

Voiceprint_kyuuni

一転して、ここでは「天地真理13」で述べた、
振幅がいきなり大きくなる、強制型ビブラートが2つ続く。
しかも、このビブラートの周期(のこぎり状の形の山の間隔)が
他の部分の
ビブラートの周期より短くなっている。
つまり小刻みなビブラートとなっているのだ。
これは「ビブラートの周期ゆらぎ」といえる。

強制型ビブラートである上に、その周期がここだけ短いことから、
ここでの歌詞に即した緊張感や胸騒ぎのようなものが、
音響効果として、非常に有効に加わっていると言えるだろう。


さらに、歌詞2番の最後の部分のビブラートである。

Voiceprint_ahuresounano

ビブラートが続く間に倍音が減少しているのだが、
残った3つの周波数(基本周波数と第2,3倍音)からなるビブラートが
徐々に消えていく過程で、「
ビブラートの音圧ゆらぎ」まで生じているのだ。
上の図33において、ビブラートののこぎり波形の低い谷の部分が、
図の上部の音圧波形における、振幅が膨らむ部分に対応しているのがわかるだろうか。
ビブラートの音程が下がる方で音圧が大きくなり、
音低が上がる方で音圧が小さくなるように変化しているのである。
声が消えゆく過程で、音の大きさまでゆらぐことで、
多次元的な音響効果となって我々の耳、そして心に、
不思議な余韻をもたらすのではないだろうか。

元々「周波数ゆらぎ」である天地真理さんのビブラートには、
ここでのテーマである「倍音ゆらぎ」のみならず、
ビブラートの「振幅ゆらぎ」「周期ゆらぎ」「音圧ゆらぎ」まで生じていた。
心地よく感じるはずである。

日本音響研究所の鈴木松美さんが、NHKのAmazing Voice という番組で
イタリアの伝統的合唱団の歌を分析していて、
周波数ゆらぎのビブラートとともに、
合唱によって音程が少し違う音が混じることによる「うなり」が音圧ゆらぎとなって加わり、
究極の歌声だと述べておられた。
しかし、天地真理さんの声の、ここでの分析結果をみると、
「究極」という言葉をそうやすやすと使うべきではないと言いたくなる。
もし究極のビブラートというものがあるとすれば、

天地真理さんのこのビブラートこそ、それに最も近いものであると思うからだ。

私は初めに、天地真理さん
「伸びのいい、それでいてやわらかく、ちょっとかすれの混じった、明るくむらの少ない声が好きだ」
書いた。
そして、”
わたしはおよめにー”の所の音色を中心に「極上の独自性」を感じ、
「不世出の証①音色美」として19項にわたって分析し、思いのたけを述べてきた。

しかしこうやって見てくると、
彼女の声を、ただ単に伸びのある、厚みのあるファルセットだということに限定することは、
彼女の声の魅力を狭くとらえたものにすぎないということに
思い至る
やわらかく倍音の多い声、真理倍音Ⅱ(O10oU4k)をベースにし、
高域の音も程よく含む、15倍音にもなる
真理倍音Ⅰ(U4kO6k)に拡張されるかと思えば、
一転、単一周波数である純音に近いハミング音まで自在に倍音を減少させ、

倍音ゆらぎ、倍音コントラストをつける。
心地よい2極の音色の間を行ったりきたりするこの音色のゆらぎが、

今も愛され、見直される Healing Sound を作り出した、
天地真理さんの音色美の本質ではないだろうか。

天地真理さんは「気が合う同志」や「大人への憧れ」の冒頭部分で聴かれるように、
響きの良い地声を持っている。
地声を追及していっても一流の歌手になったと思う。
しかし、ファルセット
(裏声)であるにもかかわらず倍音を多く出せるという特長をベースに、
その倍音が多いがゆえに厚みや奥行きを感じさせる音から、
ファルセットだからこそ倍音を減らして、純音に近いハミングのような音まで、
音色を自在に、むらなく変化させることができ、
さまざまなニュアンスをもたらすことができたことを考えると、
彼女の不世出の音色美はファルセットだからこそなしえたものだと言わざるを得ない。
「ファルセットの彼岸」といったら言い過ぎだろうか。
これ以上のことは、ここを訪れてくださった皆さんのご判断に委ねたいと思う。

  「音色美」のシリーズを終えるにあたり、
  ここで用いたソフトを参考のために挙げておく。

  周波数分析:「採紋 Ver1.0」 (シェアウエア)
          http://www.vector.co.jp/soft/winnt/edu/se479474.html
          http://www009.upp.so-net.ne.jp/hachinami/
  音声ファイルのwav化:「BatchWOO! Ver.2.5」 (フリーウエア)
          http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se457459.html
          http://lnsoft.net/
  音声ファイルの分割:「WaveSplitter Ver 1.02」 (フリーウエア)
          http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se222492.html
  音声ファイル(wavファイル)とExcelデータ(csvファイル)との相互変換:「WavCsvWav_2」 (フリーウエア)
         http://www.vector.co.jp/soft/other/java/se472182.html
         http://www.kt.rim.or.jp/~shiono/
  音声ファイル(wavファイル)の音量変更:「WAVLoud Ver1.00」 (フリーウエア)
         http://www.vector.co.jp/soft/winnt/art/se448456.html
  音声ファイルをMP3に変換:「えこでこツール Version 1.00」 (フリーウエア)
         http://www.vector.co.jp/soft/winnt/art/se445019.html
  音声ファイルの分割・結合・調整:「Microsoft Windows Movie Maker 5.1」

  これらのソフトを作成された方々に感謝いたします。

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天地真理」カテゴリの記事

コメント

すばらしい労作がひとつ完結ですね。
毎回、私が感じていたことの秘密が解き明かされていくようなスリリングな興奮がありました。
すべての内容について理解できたとは思いませんが、まさに“腑に落ちる”と感じました。
たとえば「倍音ゆらぎ」は、私に真理さんのうたのなかに<はかなさ>や<寂寥感>を感じさせる秘密ではないかと思われますし、「語頭ハミング」は真理さんのうたの独特の切れのよさに通じるのではないかと思っています。
「愛になやむ頃」を私がどう書いていたか見てみると「緊張感のある強い音色で歌っていて」となっています。これはたとえば、「愛はー」の最初に強いアクセントがおかれているがその後、音は小さくなりながらも弱くはならない、ピーンとした緊張感を保っているということを表しているのですが、真さんはそれが技法的にはビブラートであるということを明らかにされているのだと思います。
私が、あくまで“自分がどう感じたか”という観点で書いているのに対し、真さんはその「感じ」を生み出している技法を解明されている、という関係と言えばいいでしょうか。
真理さんの歌を聴いていく上で実に興味深いヒントをいただいたと思います。
ありがとうございました。

ひこうき雲さん

コメントありがとうございます。
ひこうき雲さんにこのように感じていただき、声をかけていただいて、
大変励みになりますし、ありがたく思います。

私自身がどう感じたかということを出発点に、
いろいろ分析したり、着眼したりするのが基本であることは言うまでもないですが、
ひこうき雲さんをはじめ、ご自分の感じたことを述べていらっしゃる方々のご意見を
Blogやコメントで拝見すると、
即座になるほどと思えたり、あるいは一体どういうことなのかと曲を聴き直したりと、
自分の抱く思いと照らし合わせてみる作業の中で、
様々な視点や思考の幅が膨らんでいくことが実感できました。
せいぜい3回ぐらいかと思っていた「証①」が、
19回にも膨らんでしまったのもそのせいだと思います。

昔なら、語るのはプロの評論家の独壇場だったのが、
今やネット上で様々な形で語られ、それを参照できます。
ひこうき雲さんが取り組まれてきたように、
また右のリンクに紹介している方々、あるいは紹介しきれていない方々の取組みも含め、
ただ聴くだけでなく、語ってみること、その語りを読んでみること、
さらにはそれに対し意見をコメントしてみることは、
大変意義のあることだと思います。
我々の耳や心も豊かになっていくし、
天地真理さんの歌も、そのような過程を経て古典になっていくのだと思っています。

真さま こんにちは・・

ひこうき雲さまが「スリリング」と表現されていますが、ほんとうにすごい・・。

長い眠りから覚めた真理さんの歌を、タイムカプセルから取り出して、
内在する 美のコードを ひとつひとつ紐解いていく・・ 証明に値する手掛かりを求めて 
膨大な作業を厭わない、現職の研究者としての誇りをお持ちなのだなあ、という感想です。
まさに世界で一つだけの色彩と芳香を放つ、大輪の花を咲かせてくださったのであり、
天地真理さんの世界における音の美学の探求は、未来への記録に残る功績になることでしょう。


「天地真理さんのうたの世界が、真さまのご内面を通してどのように展開するのでしょう!
そして・・それは真理さんへのねぎらいになるだけではなく、真さまご自身の人生に
すてきな実りとなって現れるのだろうなあ・・って観じられました。」

スタートの記事に、このようにコメントさせて頂いていますが、実り・・そのものですね。


「ファルセットの彼岸」 究極の賛美といえます。

ピタゴラスは「音の科学の祖」ともいわれていますね。
「弦の響きには幾何学があり、天空の配置には音楽がある」 そう残したように
音楽を数理的に分析し、究極の調和の響きが宇宙に呼応するものであると
結論づけています。

ファルセットに含まれる成分、そこから織りなされる精緻なビブラート。
聴く人の心身の免疫力を高めるといえる天地真理さんの歌声の周波数分析が、
宇宙的な調和を現わす次元につながっていくのかも・・
またもや広大な空想が始まりそうなので、今日はこのへんで失礼します~

愛さん

コメントありがとうございます。
格調高いお言葉、正直面映ゆいですが、
励みになります。
「またもや広大な空想が始まりそうなので」とは
先を読まれてますね。
今後はもう少し突っ込みやすい内容になると思います。
遠慮なくよろしくお願いいたします。

愛になやむ頃のビブラートの秘密を明快に解きほどいていただいて有難うございます。
真理さんのこの曲の声は、本当に気に入っていて、プレミアムBOXを買ったこの2,3ヶ月間だけで100回以上聴いていると思います。
にもかかわらず、私、曲の歌詞をほとんど覚えてないことに気が付きました。
どうやら、自分の中で歌としてで無く、声という音の器楽曲を聴いている感覚みたいです。
フォークの「小さな日記」や「愛する人に歌わせないで」を聴くときでは、歌詞に思いっきり聞き入っているのに、「愛になやむ頃」ではひたすらその心地よい声の響きとビブラートに酔いしれているのです。

sakura6809さん

ご体験の告白ありがとうございます。
Twitterで「愛になやむ頃」のビブラートのことに触れられて、
既に先を越された感があったのですが、
この曲で「歌詞をほとんど覚えていない」という告白でも
完全にやられました。
私も全く同じことをいずれ書こうと思っていたのです。
ビブラートでsakura6809さんの感じるすべてを言い得たかどうかは
自信がないのですが、
明らかにsakura6809さんは私と同じような聴き方をしておられることが
少なくともこの曲で判明しました。
おまけに今執筆中の次の曲にまで触れられるとは。
困ったやら嬉しいやらです。

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