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2011年3月

2011年3月29日 (火)

天地真理21 証①音色美 「好きだから」-16(周波数成分7 倍音ゆらぎ)

天地真理さんの、倍音が多い声の威力は、ただそれだけにとどまらない。
再度、「好きだから」の中の、”あのひとがーとってもすきだからー”
の部分の
調波構造(周波数成分)を示す。

Voiceprint_anohitoga_2

真理倍音Ⅱ(O10oU4k倍音)からなる”がー”と”らー”の部分にはさまれた、
”とってもすきだか”の部分を見ていただきたい。
”がー”と”らー”の部分に比べて倍音が大幅に減少している。
母音を描き分けるのに必要な最小限の成分のみになっていると言っていい。
「天地真理15」で、チェリッシュの声を分析した時に述べたが、
これは純音(単一周波数の音)に近い、ハミングのような音だ。

”とってもすきだか”の部分の母音オ、ウ、は倍音が出にくいという性質はある。
しかし、真理さんはすべての母音で、
真理倍音Ⅰ(U4kO6k倍音)、真理倍音Ⅱ(O10oU4k倍音)を出せることが確認できている。
つまり、倍音の数を変化させているということだ。
これは歌う側から見れば「倍音コントロール」であって、
出来上がった音楽としてみれば、「倍音ゆらぎ」といってもいいだろう。

このような「倍音ゆらぎ」は、
1972年後半、シングル版で言えば「ふたりの日曜日」あたりから、
より洗練され、明確に歌の中に織り込まれ、絶妙になっていく。

「若葉のささやき」にその典型例を見てみよう。

Voiceprint_wakabaga

”わかばー”のところで見事な真理倍音Ⅱ(O10oU4k倍音)(ここでは実に15倍音)が出た後、
”まちに”のところで急激に倍音が減少していき、
”きゅう”のところでは、ほとんど基本周波数と第5倍音の2つになっている。
ここでの響きは、チェリッシュの項で書いたように、純音に近く、
ハミング音のような、縦笛やオカリナのような音だ。

この独特の響きは、天地真理さんの歌をお聴きの方々にとっては、
しばしば印象に残っている声ではないだろうか。
厚みのある声の間に、フッと浮きあがるような瞬間が生まれる、あの声だ。
このオカリナのような響きは、時に透明感、時に寂寥感、
時にちょっとした驚きや意外感など、さまざまなニュアンスをもたらす。
特に母音”ウ”でよく見られるが、
1974録音の「ブランコ」では、見事な
真理倍音Ⅰ(U4O6倍音)の傍らに、
驚くことに”ア”、”イ”、”オ”でもこのオカリナ音がある。

この音色はチェリッシュの項で説明したのであえて真理倍音とはしないが、
チェリッシュの声と質的には同じでも、少し違った印象を受ける。
真理倍音Ⅰ(U4O6倍音)や真理倍音Ⅱ(
O10oU4k倍音)で囲まれた中で発せられるために、
極めて効果的に演出されるためだろう。
ここまで見事に倍音が変わると、
「倍音ゆらぎ」というよりは「倍音コントラスト」と言った方がいいかもしれない。

真理倍音Ⅰ(U4O6倍音)、真理倍音Ⅱ(O10oU4k倍音)が彼女の音色美の核だと述べたが、
これだけを聴いても心地よい上に、
これらの倍音が減り、時に倍音が極限まで消えたオカリナ音に変わるときに、
言葉の力だけでは得られない、心の揺さぶられ方をする。

2011年3月27日 (日)

天地真理20 証①音色美 「好きだから」-15(周波数成分6 真理倍音Ⅱ)

天地真理さんの音色美は、真理倍音Ⅰ(U4kO6k倍音)だけではない。
「好きだから」の中で、あまり大きく声を出していない
”あのひとがーとってもすきだからー”
の部分の調波構造(周波数成分)を見ていただきたい。

Voiceprint_anohitoga

”がー”、”らー”の部分を見ると、
音程が低いので、基本周波数が低く、
その整数倍の倍音が、”およめにー”の部分に比べて間隔が詰まって見える。
そして、基本周波数から4kHzまでの間におよそ12種類の倍音が出ている。
これは真理倍音Ⅰ(U4kO6k倍音)から、6kHz以上の成分を除いたものであるのだが、
音程がそれほど高くないところで出るため、4kHz未満に非常に多くの倍音が重なり合う。
地声歌手や、基本周波数が1オクターブ低い歌手ならこれもありうるが、
裏声(ファルセット)でこのように多くの倍音が4kHzまでの間に並ぶのは、
私は驚異だと思う。

そして、私が天地真理さんの歌を聴いていてしばしば、
いわゆるアイドル歌手というレッテルにはおよそ似つかわしくない声を出していると感じる時は、
この基本周波数から4kHzまでの間に多くの倍音が並んでいる時であることに気付いた。
どこか厚みがあって、奥行き感がある声である。

これは、一番低い基本周波数と、その上の多くの倍音が重なって出ることにより、
ピアノに例えれば、オクターブ(ドと一つ上のドを同時に弾く)で旋律を出し、
高音部では和音を鳴らすことに相当することから得られる効果である。
より正確に言うと、基本周波数を”ド”とするならば、
基本周波数と第2倍音はオクターブ(ドと一つ上のド)の関係にあり、
第3~第6倍音が出そろうと、ソ、ド、ミ、ソ、の和声が加わることになり、
さらに第7倍音以上が出そろうと、ピアノの鍵盤では表せない(12音階では表せない)
音が混じってくることになる。

私が地声歌手で心地よいと感じる音色を持つ、
今陽子さん芹洋子さんの調波構造が、これに類似している。

  奇しくも今陽子さんと芹洋子さんは、天地真理さんと同じ1951年生まれである。
  お二人とも未だに現役で歌っておられるようだ。
  うらやましい限りだが、裏返せば、
  ファルセットで、地声のこの方々のような種類の声を出せたこと自体が驚異であり、
  またそれがゆえに、この奇跡のファルセットを、
  年齢を重ねても維持していくことに困難さがあったとしても不思議ではないと私は思う。

私はこの調波構造を「真理倍音Ⅱ(O10oU4k倍音)」と名付けたい。
O10oU4kとは、Over 10 overtone Under 4 kHz というつもりである。

サイレンのように響きすぎない、やわらかい音の条件である4kHz未満に
10種類以上の倍音が重なり合って
厚み、奥行きを感じさせる真理倍音Ⅱ(O10oU4k倍音)が
天地真理さんの歌の音色美のもう一つの核となる要素だと考える。

2011年3月26日 (土)

天地真理19 証①音色美 「好きだから」-14(周波数成分5 真理倍音Ⅰ)

さて、いよいよ天地真理さんの調波構造(周波数成分)を見ることにする。
「好きだから」より

私は記事「天地真理5」で次のように書いた。

”わたしはおよめにー”の所の、母音”アーオーエイー”が続いて響く所、喉の奥の方から共鳴している”「アーオー”の響きから、鼻と胸に共鳴している”イー”へ続く響きがなんとも心地よい。

まず私が、天地真理さんの歌声において最も心地良いと感じ、
不世出の音色美と主張したい”わたし
はおよめにー”の部分の調波構造を次に示す。

Voiceprint_oyomeni

念のため言っておくが、赤線で囲んだ部分の白い線は楽器音ではない。
ポルタメント、オーバーシュート、チョーキングなどが高周波成分でも相似的に出ており
明らかに歌声の周波数成分である。

基本的特長として言えることは、
天地真理さんの声は、裏声(ファルセット)であるにもかかわらず、
倍音が多いということである。

グラフ中の”およめにー”の部分を見ていただきたい。

第1に、基本周波数から4kHzまで(4kHz未満)の成分が、
ほぼ満遍なくはっきりと出ている。
この部分にはオ、エ、イ、の三つの母音が含まれているが、
母音の描き分けと聴こえやすさのための最低限の倍音を持つ鮫島有美子さんと逆で、
母音を描き分けるために多少弱まったりする成分がある以外は、最大限の倍音を持つ声だ。
これは松田聖子さんのところで見たように、
艶のある厚みのある音色を作り出す。
ただし松田聖子さんや小柳ルミ子さんの声と異なる点は、
一番低い基本周波数がしっかり出ていることである。
ファルセットでありながら、細くなく、おなかに響いているような、
極上の地声に近い厚みがある声は、
この基本周波数がしっかり出ていて、
なおかつ4kHzまで(4kHz未満)の成分が満遍なく出る調波構造に
その理由がある。

第2に、ここが松田聖子さんと決定的に異なるところだが、
3kHz台ははっきり出ているが、4kHz台、5kHz台の成分が非常に弱い。
すなわち、聴覚が敏感な3kHz付近はしっかり出ているため良く聴こえるが、
サイレンのように響きすぎない声といえるだろう。。
やわらかい音色を作り出す決定的条件がここにある。

第3に、6kHzから9kHzにかけて、4kHz以下ほどではないが、
今まで紹介した歌手の調波構造ではほとんど見られなかった
はっきりした高次倍音がそろって出ている。
私は発声法のことはよくわからないが、
鼻から上に共鳴したと思えるような、微かにツーンとくる、
天地真理さん特有のあの声の秘密がここにあると思う。

この6kHz以上の成分は、小柳ルミ子さんの声でも部分的にうっすら見えることもあり、
松田聖子さんの声でも、よく見れば部分的に見えることはある。
他の歌手でも、アルバムでの歌唱などを良く調べれば、
これに近いものがあるかもしれない。
しかし私が魅力的と感じた部分で、ここまできれいにはっきりと出た調波構造は、
上記1,2,3のようにそれぞれの機能が理解され、
それが歌声の印象と合致しており、私にとって納得のいくものである。

私はこの驚異の調波構造を、真理倍音Ⅰ(U4kO6k倍音)と名付けたい。
U4kO6kは Under 4kHz、Over 6kHz というつもりである。

当然のことながら、真理倍音Ⅰ(U4kO6k倍音)はこの歌だけで出ているのではない。
エコーが強くかかった、マイクが遠い感じの録音では高次倍音が見えにくいことがあるが、
前に触れた、1973年録音の「空いっぱいの幸せ」でも、
1976年ライブ録音の「水色の恋」でも、はっきりと出ている。
このライブ録音「水色の恋」では、ギター弾き語りであるために伴奏音が小さく、
声の調波構造がひときわくっきりと出るのだが、
驚くことに、声を張って大きく出さない部分でも真理倍音Ⅰ(U4kO6k倍音)が
はっきりと見られる。
「水色の恋」についてはほかにもいろいろと語りたいことがあるので、
項を分けて記すことにするが、その時にその調波構造にも再度触れたいと思う。

倍音がもっと豊富に出る歌手はほかにもいるだろう。
もっと高次の倍音が強烈に出る歌手もいるだろう。
しかし、
艶と厚みがあって良く響くが (=基本周波数と4kHz未満の倍音がほぼむらなく出る)
あくまでやわらかく (=4kHz台、5kHz台が弱い)
それでいてツーンとした微かな味付けがある (=6kHz~9kHzが弱く出る)
天地真理さんの声の音色美は、
この真理倍音Ⅰ(U4kO6k倍音)が核となっていると私は主張したい。

東日本大震災を受けて

東日本大震災でお亡くなりになった方々に哀悼の意を捧げますとともに、
被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

私の居る地域は今回は直接の被害はなかったのですが、
東京電力管内にあり、また放射線被害もゼロではなく、
準被災地にいる感覚です。
海岸線から2kmの平地におり、要介護の母を近くに住まわせているため、
津波の恐怖だけでなく、停電をはじめライフラインが断たれることの深刻さが身にしみます。
おまけに親戚関係に東京電力関係者がいるため、
心中とても複雑です。
一市民として、また工学をかじった一技術者として、
日々いろいろな思いがこみ上げます。

この未曽有の悲劇を受け、今思うのは、
急性期にある被災地の方々の力になることはもちろんですが、
生き残った者として、悲しいことではありますが、この悲劇を無駄にしないこと、
何かそこから普遍的な教訓を人類の知恵として得て、引き継ぎたい、と強く願います。
それと、家も家族も職場も失った方々には酷かもしれませんが、
こんな時こそ、何か心の救いを見出し、前向きに生きるようにしたい、
萎むのでなくて、前向きに頭を使いたい、と思います。


先日天地真理ファンクラブから会員証とサイン入り色紙が送られてきました。
こんな時にこんなことをと思われる方もいるかもしれませんが、
私はそれを実際に受けてみて、
ファンクラブが実質的な活動を開始ししたという事実が示されたことから、
理屈抜きで、目に見えない希望のような感覚が湧き出ました。
どんな小さなことでも、それが前向きな何かであれば、
人の心は良い方へ動き出すと信じたいと思います。

本Blogはそこまでの力なないと思いますが、
少なくともここでやめてしまうのでなく、
むしろ天地真理さんの歌の力を借りて、
ここから前向きにさらに盛り上げていくことが、
ここで今、私にできることだと思います。

2011年3月22日 (火)

天地真理18 証①音色美 「好きだから」-13(周波数成分4 松田聖子)

次に伸びのある地声の代表として、松田聖子さんの声の調波構造を見てみよう。

Voiceprint_matsuda

地声の場合、倍音成分が多く出るという傾向があるようだ。
松田聖子さんの例では、
基本周波数よりそれ以上の倍音が強く、
第2~11倍音(5kHzま)の成分が、ほぼむらなく出ている。
倍音が多いと、艶と厚みがあるように感じるだろう。
とりわけ松田聖子さんの声では、
4kHz,5kHz台の成分がはっきり強く出ている。
これは3.5kHz~4kHzが強かった小柳ルミ子さんの声をさらに強烈にしたような、
ちょっと言い方は悪いが、サイレンのような、非常に良く響き渡る声の特徴である。
テレビなどで聴き栄えがするのはこういう声かもしれない。

参考のために合成音を示しておく。

基本周波数523Hzで、これの第2~8倍音(~4.2kHz)がむらなく出る音。

基本周波数523Hzで、これの第2~10倍音(~5.2kHz)がむらなく出る音。

2011年3月21日 (月)

天地真理17 証①音色美 「好きだから」-12(周波数成分3 小柳ルミ子)

小柳ルミ子さんも見ておこう。
この方は、裏声で歌っている印象があるが、
実は地声と裏声とをうまくつないで歌っているようだ。
聴いた感じとして地声と裏声の声質差が少ない。
ただやはり高音で声を張って出すときは裏声のようである。

「わたしの城下町」より

Voiceprint_koyanagi2

「瀬戸の花嫁」より

Voiceprint_koyanagi3

基本的には鮫島有美子さんの声に近いが、
大きな特徴としては、基本周波数よりも第2、3倍音(1kHz台)が大きく出ることと、
3kHz台の後半、つまり3.5kHz~4kHzが強いということである。
倍音が少なめで裏声特有の透明感はあるが、
1,2オクターブ高い高音主体の、キーンと響き渡る声と言えるだろう。


参考のため合成音を示しておく。

1,2,3倍音がどれも同レベル出た音

1,2,3倍音で、第1倍音に対し第2倍音が2.5倍、第3倍音が5倍強い音

上記倍音に第7倍音(3.6kHz)、第8倍音(4.2kHz)が加わった音。

2011年3月13日 (日)

天地真理16 証①音色美 「好きだから」-11(周波数成分2 鮫島有美子)

クラシック歌手、ソプラノ歌手の代表として、
鮫島有美子さんの声の調波構造を見ておく。
ピアノのみの伴奏で、クラッシックらしく遠めのマイクで集音しているため
全体に音のレベルが小さい。
ソフト上で音量を4倍に増幅してから周波数分析を行った。
「赤とんぼ」

Voiceprint_samejima

一言でいえば、言葉をはっきり伝える機能と、
音として良く聴こえる機能のみを追及されたような声だ。

グラフを見てもらえばわかるが、
母音を描き分けるのに必要な第1、第2フォルマントを形作る2kHzまでの成分が、
母音の音声特徴を示すとおりにはっきりと出ている。
さらに、人の耳が最も感度が良いとされる3kHz台の成分が、
各母音に対応してはっきりと出ている。
そして驚くことに、それ以外の成分、2kHz台と4kHz以上の成分が
全くと言っていいほどない。
良く響き、良く言葉がわかることに特化され、
それ以外の雑味をそぎ落とした声と言えるだろう。

この声でもう一つ気付く大きな特長は、
前に「天地真理7」音圧編で指摘したように、
言葉を発するときの音圧波形の立ち上がりが非常に緩やかなことである。
子音と母音をはっきり分け、それぞれをキチッと発声している。
母音ですら、半母音(わたり音)と母音の音色とを分けて発声するかのような
きめの細かさだ。
母音の所にきて声がはっきりと伸びるため、音圧波形の立ち上がりが緩やかになる。
これにより、言葉一つ一つがはっきりとしていて、大変やわらかい印象を受ける。

子音、母音、半母音などの言葉の発声の機能が分離徹底され、さらに
良く響くこと(3kHz台)と母音の描き分け(0~2kHz)の、楽音としての機能をも分離徹底された、
分析してみて恐ろしくなるほどの、機能美あふれる凄みのある声だ。

天地真理さんは、国立音楽大学付属高等学校でクラシックの声楽を習っていたそうだが、
その影響が、このクラシック歌手の音圧波形との類似性によっても垣間見られる。
子音、母音、半母音それぞれをきちんと発声することの結果、
このような立ち上がりの緩やかな音圧波形が得られると考えられるが、
鮫島有美子さんほど徹底されたものではないにしても、
このような発声を歌唱技術の基礎として守り続けていたことは、
ファンとしても誇らしい特質である。

2011年3月12日 (土)

天地真理15 証①音色美 「好きだから」-10(周波数成分1 チェリッシュ)

(Ⅲ)周波数成分(調波構造)
ようやく周波数成分の項にたどり着いた。
天地真理さんの不世出の証①を「音色美」と名付けたが、
それはこの項を書きたかったからだ。
今となっては、これまでの内容も踏まえると、
「音響美」と名付け変えてもいいように思う。

しかしやはり、私にとっての天地真理さんの歌の最大の魅力は、
その声の音色にあると言わざるを得ない。

人の声でも楽器の音でも、
真ん中の”ド”(262Hz)を例にとると、この262Hzの単一周波数のみで鳴っているのではない。
この音程を決めている
262Hzという周波数は、基本周波数といい、
これと共に多くの倍音(基本周波数の整数倍の周波数の音)が同時に鳴っている。
そしてこれが、歌声や楽器音の特徴、つまり音色を決めている。
これを
調波構造というらしい。

私は天地真理さんの歌の魅力は、
この
調波構造にこそ集約されているといっても過言ではないと思う。

天地真理さんの調波構造の特徴を認識するためには、
どうしても他の歌手と比較せざるを得ない。
ここで、他の歌手はダメで天地真理さんだけが良いというつもりは

毛頭無いということだけは、初めにお断りしておく。
このような調波構造を持つ天地真理さんの声が
私は好きだということを、
言い張るだけのことだ。

人の可聴域は20Hzから20kHzぐらいまでと言われている。
その中で最も聴こえやすいのは3kHz付近の音であるらしい。
したがって、歌手として声が良く響き、良く聴こえるためには、
この3kHz付近の成分が強く出ることが最低条件となる。
これを踏まえたうえで、ここでは0Hzから10kHzまでの周波数成分を見ていくことにする。

まず、きれいなファルセット(裏声)の代表として、
チェリッシュ松崎悦子さん
声の調波構造から見てみよう。
1972年録音の「ひまわりの小径」より。

Voiceprint_cherish1

Voiceprint_cherish2

私は中学生時代、この歌を初めて聴いてその純な響きに驚嘆したのを覚えている。
深夜放送でこの曲が流れると、胸騒ぎがするほどの寂寥感に襲われた。
その印象は今聴いても変わらない。

ファルセット(裏声)の一般的特徴としては、
その倍音成分が比較的少ないということだ。
いわば単一周波数である純音に近い。
純音は楽音の仲間に入れてもらえず、
一般的には面白味がなく、
倍音を含まないために音色としての特徴を欠いていて空虚な印象を与える”
とある。
しかし、ビブラートなどのゆらぎを含んだ、倍音成分が少ない、純音に近い声が、
ある曲調に従い、ある状況で響けば、
独特の心地よい響きになる。
そのことがこの歌では証明されていると思う。

この歌手の声は倍音が少なく、
2kHz以下の、基本周波数+2~5倍音からなる調波構造を主体とするところに
最大の特徴がある。
0~2kHzの周波数領域は、「天地真理11」の項で触れたように、
母音を区別するための第1、第2フォルマントがある周波数
領域である。
したがって、言葉として認識できるために最低限必要な周波数領域であって、
音としてならともかく、歌としてはこれ以上減らしようがないぎりぎりの歌声である。

たしゆめ わりでしょうか”、”かぜにかれ でゆくわ”
の赤字の部分では、
基本周波数+2~3倍音であって、
純音に近いためか、はかなく、純粋な印象を与える。

とりわけ、
わたしのゆめは おわでしょうか”、”かぜにふかれ んでゆくわ
の赤字部分で聴かれる、私が胸騒ぎを起こすほどに印象的な響きは、
基本周波数+2~3倍音+かすかに7~9倍音(3kHz台)
となっている。
純音に近い音に、聴覚を最も刺激する3kHz台の音が加わった効果だろう。

もちろん、少し力を入れるとこの歌手は
わたしのゆは おわりでしょうか”、”かぜにふかれ とんゆくわ
などのように、4kHzまでの倍音がはっきりと出て、
より張りのある声も出す。

しかし、この歌手の最大の特長はやはり、やわらかく響く、透明感のある歌声にある。
それは、主として

 基本周波数+2~3倍音(+3kHz台)
の領域の調波構造にあるといえるだろう。

参考までに、純音と、ここで示した調波構造の合成音を最後に示しておく。

基本周波数のみ=純音  ド(523Hz振幅1 単一周波数のSin波)

基本周波数+第2倍音  ド(523Hz振幅1+1.046kHz振幅1)

基本周波数+第2倍音+第3倍音  ド(523Hz振幅1+1.046kHz振幅1+1.569kHz振幅1)

基本周波数+わずかに第7倍音  ド(523Hz振幅1+3.661kHz振幅0.1)

2011年3月 5日 (土)

天地真理14 証①音色美 「好きだから」-9(周波数ゆらぎ~ビブラート2)

「好きだから」の中にもう一つ特徴的なビブラートの傾向がある。
音楽的にも音程的にも、盛り上がっていき、下がっていく部分、
ふたーりで だいてー しろいー すなはまー かけてー いくのー
の、ビブラートの振幅と周期の変化の仕方である。

Voiceprint_vibrato

どれも第6倍音を取り出して比較している。
音程的には”しろいー”のフレーズが一番高く、その前後は低い。
これに逆対応するように、ビブラートの最大振幅が
324Hz→236Hz→251Hz→292Hz

と変化している。
またビブラートの周期も

0.17秒→0.14秒→0.15秒→0.18秒
と変化している。
すなわち、音程が高くなるほど、ビブラートの振幅が小さく、周期が短くなっている。
音程が高いほど小刻みに小さくゆらぎ、音程が低いほどゆっくり大きくゆらぐ
といってもいい。
一番良く聴こえるという3kHz周辺に着目すれば、
この
ビブラート振幅の差はもっと大きくなる。

  このようなゆらぎを、日本音響研究所の鈴木松美さんは1/fゆらぎの特徴とおっしゃっている。
  私は、1/fゆらぎ研究で有名な武者利光さんの定義に従った周波数ゆらぎにおける
  1/fゆらぎの説明としては、これは適切でないように思う。
  しかし、天地真理さんの歌に1/fゆらぎが本当にみられるかどうかについては
  興味のあるところである。
  これについては後ほど、別途項をかえて検討してみたいと思う。

このようなゆらぎ方は、直観的に心地よいと思える。
高音で緊張した所では短く、細かくふるえ、
音が下がっていくと、ゆったりとした大きなゆらぎに落ち着いていく。

喉の緊張と弛緩にも合っているし、自然界の法則にも合致しているようで
自然な感じがする。

天地真理さんといえども常に、これほど図ったような、
音程が高いほど小刻みに小さくゆらぎ、音程が低いほどゆっくり大きくゆらぐ

というビブラートにしているわけではないようだ。
しかし、とりわけ「ビブラートの周期ゆらぎ」、
すなわち、緊張感や高揚感を出すときは周期の短いビブラート、
帰着感や安堵感、あきらめ感などを出すときは周期が長めのゆったりとしたビブラートを
随所で効果的に使っていると言えるだろう。
しかもそれが、強制的な、”ゆする”、”ゆらす”というよりは、
自発的な、”ゆれる”、”ゆらぐ”といった感じっであるため、
非常に心地よく感じられると思うが、どうだろうか。

さて、ビブラートと言えば、1973年録音の「愛になやむ頃」という曲で、
彼女は信じられないほど素晴らしいビブラートを聴かせてくれている。
私はこれほど心地よいビブラートを聴いたことがない。
「好きだから」という1曲で、不世出の証①を語っている途中で
別の曲に行くのはちょっと気がひけるが、
この曲だけでは語りつくせない、
天地真理さんの歌の魅力としてどうしても外せない特質が端的に現れているので
触れさせていただきたい。
ただし、これを説明するためには、
次の「周波数成分」の項を経てから触れた方がよさそうである。
周波数ゆらぎ「ビブラート」編は一旦ここで終わることにする。

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